宇多津の蛸壺生産
回転する粘土から次々に壺が生み出されていく。これらはやがて蛸壺となって遠く離れた漁師の手に渡り、海の中で活躍することになる。
香川のほぼ中央、宇多津町の鍋谷(なべや)では蛸壺をつくっていた。
祖父の代からこの地で蛸壺屋を営んでいたという藤原さんは、10代のころから蛸壺生産に携わっていた。
藤原さんのつくる蛸壺は陶器製で、材料となる粘土を調達するところから作業が始まる。粘土は近くの吉岡(香川県丸亀市)のもの。瓦生産で有名な菊間(きくま 愛媛県今治市)からも吉岡の粘土を買いに来ていたという。
仕入れた粘土は作業場内の決まった場所にストックしておく。必要に応じて粘土を土練機で練る。
土練機を経た粘土は直方体で、この粘土を専用の機械で筒状にする。
筒状の粘土に円盤状に整えた粘土を貼り付ける。この部分が蛸壺の底になる。
粘土を型に入れて、轆轤(ろくろ)を用いて成形する。
蛸壺の形になった粘土をしばらく乾燥させる。
乾燥後、茶色や黒色の釉(うわぐすり)をかけ、窯に詰めて焼く。釉の色は発注側の漁師の好みに合わせている。
焼き上がると蛸壺が完成する。
藤原さんが焼く蛸壺は、多い時で年間100,000個にもなったという。
近年、プラスチック製の蛸壺が増えてきたが、陶器製の蛸壺を好む漁師は瀬戸内でわずかに残る蛸壺生産者を頼ってきた。なかでも鍋谷の藤原さんが受ける発注は広い範囲に及んでいた。その結果、野忽那島(のぐつなじま)や津和地島(つわじじま)など瀬戸内の西部にまで藤原さんの手がける宇多津産蛸壺が流通することになった。
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